未来のかけらを探して

一章・ウォンテッド・オブ・ジュエル
―3話・女暗殺者エレンと共に―



「……。」
一行は思わず言葉を失った。
彼らの理解できる域を超えていたため、反応しようが無かったらしい。
呆然とした様子で立ちつくしている。
「驚いたようだ。」
驚いて目をまん丸くしたままの一行を見て、淡々と女性が告げた。
「そうだろうな、エレン。お前の言うとおりだ。」
青年は不敵に笑う。エレンと呼ばれた女性は、黙ってうなずいた。
と、唐突にパササが口を開く。
「ね〜、このぐらいのおっきな宝石知らなイ?」
何だか難しい話になると思い、強引に話題を変えようと試みたようだ。
手でルビーと同じくらいの丸を作って、六宝珠の事を聞いてみる。
「ん……宝石か?その位大きい宝石の在り処の噂は聞いたが、
魔物が強いとやらで誰も行かなくなった洞窟だぞ。」
もしかすると、いきなり大当たりかもしれない。
少々気分がよくなってきた。それにしても、不自然なくらいあっさり喋ってくれたものだ。
「我ら一族は興味がない。」
青年の言葉にエレンが付け足す。
興味が無いからあっさり教えてくれたらしい。
もし少しでも関心があるのなら、喋らないのが当然だ。
「そうなんだ……それで、その洞窟は何処にあるの?」
場所だけ教えてくれれば、言い方は悪いが彼らに用は無い。
人間嫌いを通り越して重度の人間アレルギーのグリモーが、
案内でもなんでも人間と一緒になんて言ったら大暴れするかもしれない。
「東だ。ついでに、エレンにも行かせるとしよう。
不利な状況下で戦う修行だ。」
何かが引っかかるが、ふくれっつらだけで留めておいた。
人間の、それも大人が考えることなどあまりわからない事だ。
ちょっとでも頭がいい生き物は、
大人になると子供の頭には理解できない事を平気でやってくれるから困る。
「御意……。お前達、ついてこい。」
そう行って、ちらりと彼らを一瞥してすたすた歩き始めた。
「おいてめーはいらねーよ!!……なんか、利用されてねーか?」
グリモーが思わず最悪に失礼な本心を口走っても、
エレンは振りも気もせずさっさと先に進んでいってしまった。
グリモーでなくとも文句はあるが、置いていかれては目的の物にたどり着けないのでついていく。
この強引な展開に、疑念は根強く残る。
『うん……。』
だが、この際文句は言っていられない。
エレンは先を歩いていくだけで、全く口で道を教えてくれないからだ。
無事に目的の物に出会えるか、今から不安になってきた。
「ほんとに大丈夫かよ、このアマ……。」
もっともな疑問を口に出し、グリモーはわざとらしいため息をついた。
男のプライドで暴れるのだけはこらえたらしいが、
やっぱりものすごく嫌らしい。
「さぁ?」
得体の知れない人間が相手でものんきなエルン。
相方のパササも、鼻歌を歌っている。この適応力はある意味才能だ。
「……魔物だ。」
物陰から現れた魔物は、見たことはないがかなりの雑魚だ。
プーレ達が手を出す前にエレンが一瞬でしとめていた。
その技は、常人なら見えぬほどだ。勿論彼らは何とか動きが見えた。
人間ではないから、動体視力は伊達ではないのかもしれない。
「すっごーイ!」
「早い……。」
「職人芸ぃ??」
これだけ言っても、やはり完全に無視である。
感情がない生き物とに話しかけるのが、これだけ無意味な事だとは知りもしなかった。
「つまんないなー……。」
あまり他者に不満を漏らさないプーレも、無意識のようにポツリとつぶやいた。
もちろん彼女の反応はない。反応が返ってこないのは、今学習した事だ。
「ついたぞ。」
どうやら、もうついたらしい。
案外近いところにあるようだ。
「もうついたの?だったら、教えてくれれば良かったのに……。」
プーレが少しだけ不満そうに言った。
確かに、この位の距離なら教えてもらった方が早い。
まったく、本当にさっきの男の考える事は理不尽で仕方がない。
「ここは、分かりづらい所にあるからだ。」
ひたすら置いて行かれないようについていっただけなので、
あまり周りを見ていなかった。
そのためにあまり覚えていないのだが、背後を見て納得した。
うっそうと低く茂る木々と、伸びきった雑草の合間にあるこの場所。
確かに、普通なら見落とすだろう。
「あ、やっとしゃべってくれたねぇ〜。二時間ぶりだぁー!」
実際に二時間も経っているわけないが、
反応を返してきたのが楽しいのか、エルンは少々はしゃぎ気味に言った。
「……だからなんだ。」
感情がこもっていない筈なのに、どこか冷ややかに感じる視線。
思わずエルンはたじろぐ。
「え゛……意味ないけど。ないとだめなのぉ?」
意味がない言葉に反応は示さないのか、彼女はまた黙ってしまう。
「無口だよね……。むだなことには興味がないみたい。」
「そうだね、しゃべんないのにつまんなくないのがすごいよねぇ〜。」
何かずれている気がしたが、深くはつっこまない。
「おまえ、プーレが言いてぇこととちげーこと言ってねーか?」
呆れたグリモーが、思わずつっこみを入れた。
エルンの隣で、プーレが困ったように笑っている。
「そうかなぁ?」
きょとんとした様子で、エルンは小首をかしげた。
真似してパササまで首をかしげている。顔が笑っているので、どうやら遊んでいるらしい。
「そうだよ!」
「そーかなぁ……。」
思い切りつっこんだつもりだったのだが、どうにも伝わらない。
洞窟は、まだまだ深く続いている。




やがて、広間のような空間にたどりついた。
そこには、まばらだが宝の姿がある。
「わー!お宝お宝〜!」
宝箱の姿を見つけるが早いか、きらきら目を輝かせた。
「パササ、ぜ〜んぶもらっちゃお〜ぉ!」
言うが早いか、2人は宝に走りよっていく。
勿論、あとの二人も別のお宝の元へ。
別に宝が目的なわけではないが、やはり冒険の醍醐味といえばこれだろう。
だがエレンは、宝にはしゃぐ子供達とは対照的だった。
周りに魔物が居ないか、常に精神を張り詰めて探している。
「……おねーちゃんー、こっち向いてよぉ〜。」
宝をもう集めきったのだろうか、エルンが声をかける。
「何だ?」
エレンは、首だけをそちらに向けた。
とりあえず、きちんとした用件があると認識したのだろう。
「あれとっテ〜。」
くいくいと彼女のマントを引き、しきりにある一点を指差している。
「ぼく達じゃ届かないんだ……。」
エレンはプーレが指差す位置にあるくぼみに目をやった。
そこには、どういうわけかエクスポーションがある。
「……受け取れ。」
そういって、ぽんっと投げ渡してきた。
「ありがトー☆」
丸く透き通ったエクスポーションをきちんと受け止め、荷物の中にしまいこんだ。
無事に宝も手に入れ、また一行は洞窟を少しずつ進んでいった。
もう洞窟に入ってから、一時間以上経過している。
外からの光はとうに入らなくなり、よって手元の松明と獣の視力だけが頼りである。
「くらいねぇ……。おねえちゃん、ここどこまでつづくのぉ?」
人間より目が利くとはいえ、元々夜行性ではないので先があまり見えない。
少々疲れてきたのか不安なのか、思わずエルンは問いかけた。
「分からない。」
首を横に振り、短く返事を返す。
彼女は場所を知っているだけで、今まで入ったことがないらしい。
「おい、ざけんじゃねーよ!」
グリモーは、一番いらだっているようだった。
元々短気な上、先の見通しがたたないのが人一倍嫌いからである。
多分、相手が人間なのがそれに拍車をかけているのだろう。
「グリモー、さっきからいらいらしすぎじゃない?」
ぴりぴりした空気を撒き散らされてはたまらない。
先がどこまであるのかわからなくて、不安だったりするのは皆一緒なのだ。
「のんきでいいよな、おめーはよ。」
けっと言わんばかりにそっぽを向いてしまう。
仮にも友人に対して、ずいぶんな態度だ。
「もー、なんなのさ。」
呆れ様子で、プーレがため息をついた。
グリモーのわがままと短気は今に始まったことではないが、
あまりやられるとさすがに彼もカチンと来る。
「グリモー短気〜、短気〜♪」
それに追い討ちをかけるように、パササが茶化す。
「ふっざけんじゃねぇよてめーーー!!」
今の発言で完全にぶち切れたらしい。
沸騰したやかんを擬人化したら、こんな感じだろうか。
「わー、おこったおこっタ〜!」
きゃいきゃい笑いながら、おかしさに手を叩いている。
怒りのあまりグリモーは耳まで真っ赤だ。
「静かにしろ。」
その声で騒ぎが一時止まる。
その時、気がつくとそこにはとてつもなくおぞましい空気が漂っていた。
出所はこの洞窟の主といった所か。
「誰なの・・?!」
思わず、体がこわばる。
まだ姿がうっすらとしか見えないが、かなりの大蛇だ。
「だ、誰よぉ!」
その問いを聞きつけ、何か巨大な物が近寄ってくる音がする。
「我が名はグランフィーメ……。
貴様ら、わしの宝を奪いに来ただろう……!」
そこに居たのは巨大な蛇だった。
どうやらここは蛇の巣穴だったらしい。
「お宝……?ルビーさん、あいつが仲間もってるのかナ?」
首から提げたルビーに、恐る恐るたずねる。
できればこんな蛇は相手にしたくないのだが。
“あぁ。奴は風のエメラルドを持っている。
気をつけろ、もしこんな狭い所で大暴れされたら……。”
やはりこの蛇が持っているらしい。
おまけにかなり手ごわそうだときている。
「……命はないか。足手まといにはなるな。」
エレンが、この島固有の武器である忍者刀を抜いた。
勿論、彼女だけではなく全員が得物をかまえたが。
「ハープカッター!」
まずエルンが宙を舞い一撃を加える。
他のメンバーは、次に攻撃するために身構えていた。
「ふん……むず痒いだけじゃ。」
『え……?』
まるで効いていなかった。
それどころか、怒りをあおっただけだった。
「その程度の力しか持たぬくせに、わしに勝負を挑もうなぞ……百年早いわ!!」
言うが早いか、すさまじい勢いで振るわれた尾が迫る。
こんなものを食らってはひとたまりもない。
しかし、蛇の尾がぶつかろうとした瞬間にその前からエルンが消えた。
紙一重の差で、エレンがエルンの首の根をつかんで退避させたのだ。
「いったぁ!」
エレンの機転で、幸い尾の先端がかすったことによる打撲で済んだ。
だが、直撃していれば間違いなく死んでいただろう。
「……やられたか。」
こくりとうなずいたエルンに、エレンは手早く薬を塗りつけた。
ポーションではないようなので、彼女の一族だけの薬だろう。
「お、おい岩が……!?」
グリモーの顔から血の気が引いた。
グランフィーメの尾が当たった箇所の壁が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちたのである。
「うわー……、ねぇどうする?」
とにかく硬すぎて肉弾戦ではどうにもならない。
もし接近すれば、崩れた壁の二の舞がいいところである。
遠距離攻撃でも何でも、何かこいつをしとめるための方法は無いだろうか。
「ねぇ、ルビーさんまた前みたいに火を出してヨ〜。」
“こんな狭い所で、この蛇を焼き尽くす火を出すのは不可能だ……。
お前らまで熱で蒸し焼きになるぞ。”
確かにそれは嫌だが、このままでは埒があかない。
しかしだからといって外へ誘い出そうにも、外からここまでにはそれなりの時間がかかっている。
これでは、誘い出す前に蛇の攻撃で力尽きてしまうだろう。
「どうしよう……?」
戦闘経験が少ないプーレ達は戸惑うしかなかった。
だが、場数をこなしているエレンはこう言った。
「蛇に勝つ方法はある。」
対峙するグランフィーメを睨みつけ、きっぱりと言い放つ。
『え!?』
驚きと期待に満ちた眼差しが、エレンに向けられる。
「おい、早く教えろよ!」
「グリモー、あわてちゃだめ!」
あせって彼女の邪魔をしかねないグリモーを、プーレはしっかり手で制した。
プーレの気迫に負け、グリモーは黙る。
「ねぇ、なんなノ?!」
弱点を突く手段さえあれば、彼らでもこの蛇を倒せるだろう。
そう確信したのか、エレンは口を開く。
「冷気。これがこの手の魔物の弱点だ。」
そう、蛇を含む爬虫類系の魔物の弱点といえば冷気。
大抵の冒険者にとっては常識だが、彼らは知らなくても仕方ない。
幼いし、そういう知識を得る機会もほとんどなかったためだ。
「じゃあ、ブリザドの本を……。」
読めば魔法が発動する魔法の本。これさえあれば勝てる。
そう思ってプーレが探し始めたとたん、グランフィーメが襲ってきた。
いきなり目の前を多い尽くした蛇の口を、一行は見事な反射神経でかわした。
「わぁ!だ、だいじょうぶぅ〜?!」
ターゲットはプーレだった。
どうにかその牙を逃れたプーレは、額に冷や汗を浮かべている。
「う、うん……。」
素早い彼は一番危険な位置であったにもかかわらず、ぎりぎりでかわしていた。
弱点はわかったが、余計危険な状態に置かれた気がする。
「これじゃ探せねーじゃねぇか!!」
グリモーの意見は珍しくもっともである。相手はもう完全に本気だ。
その証拠に、ブリザドの本を持つプーレだけを執拗に狙ってくる。
これではますます探せない。
「さ、最悪……。底に入っちゃってるみたい!」
よりにもよって、一番取り出しづらい場所に入り込んでいた。
おまけにプーレ達の荷物袋は、アイテムを一緒くたにしているので中身が多い。
泣きっ面に蜂というか、駄目押しというべきか。
「バカやろーー!!」
グリモーは怒るが、もうこうなったものは仕方ない。
とにかく、この状況下でどうにかして本を探し出して使わなければならない。
ブリザドの本なくしてはこの大蛇に勝てない以上。
「どーすんだよ!……っうわ!」
油断をしていたら、グリモーの方にもグランフィーメの尾が飛んできた。
かろうじて攻撃をかわし、そのために砕かれた岩の落下も避ける。
「探せ。」
相変わらず冷静なのはエレンだけだ。
残りのメンバーは、息つく間もない猛攻をよける事に精一杯。
特に、魔法の本が入った荷物袋を抱えるプーレは。
「そんなの無理だって……わぁ!」
攻撃をかわしたはずみで、荷物袋が腕からすり抜けて飛んでしまう。
グランフィーメが、にやりと勝ち誇ったように笑った。
「あ゛ーー!」
もうおしまいだとばかりに、グリモーが頭を抱えて叫ぶ。
だが、そうしている間にも袋は地面に落ちていこうとしている。
落ちてしまったらグランフィーメの思う壺だ。
「キャッチぃ!」
が、タイミングよくエルンが受け止めたのでその場はしのげた。
このまま落ちていたら、どうなっていたことか。
「エルン〜、あルー?!」
プーレに代わって、本を取り出そうと奮闘するエルン。
だが、プーレ同様なかなか取り出せない。
「えぇ〜、待ってよぉー!」
そこに飛んできたグランフィーメの攻撃をよけたものの、
そのせいでパニックになったエルンの動きは悲しいくらい無駄が多い。
かがんでみたり横に一回転してみたり、まるで大道芸でも見ているかのようだ。
『早くーー!』
もう見ていられたものではないが、まだ本は取り出せない。
戦闘が始まってから早十分。
いいかげん、疲れてよける動きも鈍くなってきた。
持久戦になれば、まだ小さいプーレ達は体力の点で断然不利だ。
そう思ったその時、グランヒィーメの腹から緑色の光が迸り蛇の動きを止めた。
“奴の腹に入ったエメラルドの力だ!さぁ、今のうちに探せ!”
グランフィーメは、身の内から迸る風の力で苦しんでいる。
勿論エルンは、チャンスとばかりに捜索を続けていた。
おかげで少し余裕が戻ってきたらしい。
「う〜んん?あ、あったぁーー!」
澄み切った青色の薄手の本。大きく氷の絵が描かれた表紙。
念願のブリザドの本そのものである。
逃げ回りながら捜索する努力が、ついに実を結んだ。
「やったア!」
小さな体でとは思えぬほどに高く飛び上がり、パササはガッツポーズを決めた。
「パササ、パスぅ!」
後はこれを、プーレに渡せばいい。
人間の文字が読めるのは、子供の中では彼だけだ。
「プーレー、早く読んデ〜〜!」
パササがエルンから投げ渡された本を受け取る。
そして、それをプーレめがけて思い切り投げつけた。
グランヒィーメも当然気がついたものの、エメラルドに抑えられているので動けない。
ただ、うめき声を上げて眺めるだけだ。
「よ〜し!じゃ……。」
勝ち誇ったようにプーレが笑った。
ブリザドの本を右手に持ったその姿は、
グランフィーメの目には残酷な金色の悪魔のように映った。
「ひ……!」
グランフィーメの目が、恐怖に見開かれる。彼が恐れていた事態は現実となった。
精神を集中させるかのように一拍目を伏せ、プーレが本を開く。
「……万物を潤す水よ、我が命じるままに我が敵の元へと集え。
そして、かの者を閉じ込める氷塊と化せ!ブリザラ!!」
本のページから、文字が消える。
それと同時に、本から飛び出した魔法がグランフィーメに襲いかかった。
小さな水滴が周囲に無数に群がり、瞬く間に氷塊と化す。
そして、澄んだ音を立てて砕け散った。
「ぎえぇぇぇぇぇぇ!!!」
砕けた氷の破片とともに、グランフィーメの硬い鱗がぼろぼろと崩れ落ちていく。
鱗の下の薄い皮膚があらわになった。息の根こそ止め損ねたが、これで勝機は十分だ。
もはやグランフィーメの体を守るものはない。
「ずいぶん動きが小さいな。」
あちらもそれは承知のようで、先ほど以上に隙を見せないようにしている。
それをエレンが鋭く指摘した。
「ぐ……。」
別にエレンは深い意味はこめていないが、グランヒィーメにはかなりの侮辱だったらしい。
本当に悔しげなうめきを発した。
「おりゃーー!」
グリモーがモーニングスターを振り回す。
鉄球のトゲが、遠心力の勢いで腹の近くに深々と突き刺さった。
再び彼が鎖を引き寄せて鉄球のトゲを抜くと、おびただしい量の血が流れ出てくる。
「ぐぎゃあああ!!」
耐え難い激痛に悲鳴を上げたが、当然痛みがしのげるわけもない。
だが、それでも上体を大きくそらせて痛みに耐え抜こうとする。
「ていっ!」
間髪いれず、その傷の近くを狙ってプーレの蹴りがヒットした。
チョコボの足を模した足用の爪が、あざのような跡をのこす。
グランフィーメは倍増した痛みに耐え切れず、体がぐらついた。
そこに追い討ちをかけるが如く、風を切って飛んできたエレンのくないが刺さる。
先ほどの恨みとばかりに、エルンのハープも同時にヒットした。
傷の周囲を徹底的にえぐられ、短時間のうちにグランフィーメは動けない状態まで追い込まれた。
「じゃ、今日のとどめはパササだねぇ♪」
怖いくらいにっこり笑ったエルンが、相棒の肩をぽんと叩いた。
「オッケ〜、じゃ、やろっかナ……。」
パササがにやりと嫌な笑みを浮かべた。
それはどこか悪魔に似た、背筋が寒くなるような笑いだ。
「こかんショット〜〜!」
勢いよく飛んでいくパチンコの玉が、容赦なくグランヒィーメの急所へ。
グランフィーメは、声すらあげる事が出来ずに絶命した。
『やったー!』
名前からして実に残酷な技だったが、効果はてきめんのようだ。
支える力を失ったグランフィーメの体は、あっけなく身を地に伏せる。
「さて・・どうやって取り出すの?」
これが最後の難関。
全長が20メートル以上の大蛇の腹から宝珠を取り出すのだ。
結構な大仕事だろう。無駄に長い胴体の、どこに入っているのかわからないのだから。
「地道にやるしかない。」
そう言って、エレンはさばくための道具を取り出した。
いくつも取り出しているので、プーレ達もやれということだろう。
「お前たちも手伝え。」
予想は的中し、同時に全員の顔がうんざりしきったものに変わる。
「やっぱし〜ぃ?」
ただでさえ戦闘で疲れているのに、
これ以上の労働ははっきり言ってごめんである。
「けっ、だーれがやるかよ!」
グリモーは、疲れもあっていつも以上に反抗的。
だが、それをたしなめるプーレの言葉も今はなしである。
彼も彼でくたびれきっているのだ。
「でもでもー、おなかやぶんないとだめだってルビーさんガ〜。」
そう口ではいっているが、実際はじべたに寝っ転がるパササ。
結局、くたびれているから何もしたくないらしい。
“……仕方ない、やるぞエメラルド。”
ふうっと、ため息に似た声を漏らすルビー。
このままでは、いくら待っても仲間が出してもらえそうもないと悟ったらしい。
“そう来た?じゃあ、行くぞー。”
少々おどけたよう軽い感じの声が返る。
こちらは、エメラルドの声だろう。
ルビーと大蛇の中のエメラルドが強い輝きを放つ。
そして、腹を食い破るようにエメラルドが出てきた。
どういう仕掛けなのか、出てきたエメラルドには一滴の血もついていない。
「それができるなら、最初っからやればよかったのニ……。」
二つの宝珠が実行した苦肉の策を、ばっさりと切り捨てるパササだった。
その言葉にルビーは、胸中で怒りを覚えたとか、涙を流したとか。



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何というか、前半一行が流されているのがこの話の特徴のような。(何)
後半はバトルしかしていませんね。
思えば、初めてボス戦らしいボス戦しているような気もします。
はっ……、エルンとエレンでは一文字違いの親子みたいでは……。
一昨年(注・サイト開設前)辺りに書いている間は気がつかなかったのですが。
修正時に、性格の差別化の都合で一箇所パササの台詞をエルンのものに変えました。
(2004/1/25修正)